エミグラント・ウィルダネスは,サンフランシスコから東へ車で250q。シエラネバダ山脈のヨセミテ国立公園の北に接する面積約457ku(神奈川県の5分の1の広さ)の自然保護区。その多くの部分は森林地帯で,火山性の峰々と花崗岩の岩山,氷河が形成した無数の湖と草原が点在する。多くの観光客が訪れるヨセミテやタホ湖と比べ静かに休暇を過ごせる場所だ。ヨセミテのような特徴的な渓谷も大きな滝もない。湖はどれも小さくタホ湖とは比べものにならない。が,ここには,“ビューティフルよりプリティ”が似合う美しさとアプローチしやすい条件がそろっている。
氷河で造られた湖の多くは,氷河の流れに沿ったように同じ向きに並んでいる。花崗岩の岩山と森に囲まれ,湖面に小島や岩を浮かべる湖。湖底がよく見える透き通った水。鏡のように周りの風景を映すかと思えば,空の青さに染まり,風に波立って輝く。湖やクリーク(川)が多いこの地域は,どこでも飲料水に困らない。湖畔にはキャンプに最適な場所がいくつもある。森で枯れ枝を集めればキャンプファイヤーも楽しめる。ウィルダネスの中心部に来れば,湖から湖への移動に1時間もかからないし,険しい峠を越えることもない。雪解けの7月であれば,草原は緑に覆われ,あちこちで高山植物の花畑を見ることができる。
アメリカでは,キャンプを伴うハイキングは,管轄する公園局や森林局の事務所で許可証をもらわなくてはならない。ほかの保護区では,同じ場所に登山者が集中しないように1日あたりの入山枠を設けているが,ここにはその制限がない。それだけ人が少ないのだ。ヨセミテの人気のトレイルのように半年も前から予約をしたり,早朝から並んだりする必要はない。また,ヨセミテなどブラックベアの生息地では,食料やごみの保管に特別の規則があるが,ここに熊はいない。熊よけの食料保管箱の携行は義務ではないし,車の中に食料を置いておくこともできる。
“エミグラント・ウィルダネス”。
豊かな自然の中で,ゆったりとバックパッキングが楽しめるシエラネバダ山脈の秘密の庭園である。
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